フィリピンから帰国した坂元君の論文2本

 坂元君が2013年、フィリピンのNGOで体験したインターンシップをもとに、2つの論文を提出してくれました。

 (1) コミュニティ・スピリットにかんする論文

 Development and Community Spirit : A Balancing Act

 この論文では、フィリピンに固有の相互扶助の文化(Bayanihanの思想)がどのように継承されているか、または、近代化・産業化によって失われてきているかを現地でのヒアリング、体験調査を通じて明らかにしています。

  

(2)フィリピンの離島問題についての政策提言

 Issues of Islands in the Philipines

 この論文は離島の経済社会の状況を現地調査によって明らかにしています。

 漁業と農業だけの生活から、フィリピンでも6次産業化を追求する取り組みが始まっています。この論文では、具体的な事実の調査をふまえ、さらに「何を成すべきか」という提言に踏み込んでいます。

 よく整理されているので、わかりやすく、特産物の生産による現金収益の増加への政策提言も説得力のあるものだと思います。対象となった地域の人びと、NGOの今後に役立つものです。

 ただし、ここでの提言が具体的にうまく進むかどうかには、まだ考えるべき課題があります。

「資本調達」(どのようにして必要な設備投資を行うのか)

「販売流通」の課題

「組織の問題」(だれが教育・指導するのか)。

  実践的な政策として、こうした課題にどのように取り組むかを考えなければなりません。フィリピンのPAKISAMAなどのNGO、その指導者、教育者がもっとも力を入れているのは、こうした具体的な実践策です。

 2014年、今年は、こうしたNGOの指導力、教育力を考えるためにスタディツアーを計画したいと思います。

 雪郷久斎
Development and Community Spirit A Balan
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Issues of islands in the Philippines.pdf
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坂元君がフィルドラ研修を始めています

坂元健人君のブログです。

レポートを楽しみにしています。

フィリピンにおけるNGOの活躍と市民社会

槙野 惇

 1986年のエドサ革命以降、フィリピンではNGOに代表される多くの市民活動が同国の民主化に寄与してきた。開発の分野では土地の再分配が主要な課題として取り上げられ、農村ではCARPER、都市部ではCMPが推進されてきた。フィリピンの開発の特徴はNGOPO(市民団体)と政府が互いに連携して目標を達成する点にある。これはピープルパワーによって取り戻されたとされるフィリピンの民主主義を象徴するものだ。

 しかしマルコス政権崩壊後に順調に下がっていった貧困世帯率はここ10年ほどの間約20%で推移し低下する兆しを見せない。またエストラーダとアロヨの二代に渡った大統領の汚職は同国政府の脆弱性を露見した。フィリピンの民主化はここにきて長い停滞を迎えているといえる。

 私は六か月間のNGOインターンを通して、農村部と都市部の両方の開発を実際に体験させていただいた。NGOPOの方の話を聞き、またフィリピンで日々の生活を現地の学生と共にする中で、この停滞がどのような意味を持つのか考えた。

 フィリピンにおける開発の主体はNGO、政府、POの三者だ。政府が開発プログラムを作り、NGOが開発地でPOを組織し、PONGOの技術的支援を受けながらプログラムを遂行する。しかしこの三者はそれぞれに問題を抱えている。NGOは活動資金の不安定さや個々の団体の質のばらつき、政府は弱い政党とポピュリスト的政治家の増大、POはコミュニティ内部の格差とプログラムに対する熱意の差が挙げられる。

 上記のような問題に加えて私が最も気になったことは、フィリピンの人々が自国に対して持つ感情だ。国民意識といってもいいかもしれない。私が貧困コミュニティを訪問した際、学生の友人たちは危険だから止めた方がいいと注意してきた。また彼らは日中であってもそういった場所には近づかないようにしているともいう。貧困層と中間層の間には塀などの物理的な壁だけでなく心理的な壁もあると感じた。また所得層に関わらず多くの人々ができるなら海外で働きたいと言っていた。フィリピンは出稼ぎ労働者の送金額が対GDP比10%以上、絶対額的には世界最大の出稼ぎ国である。

 実際に生活して、彼らのフィリピンという自分たちの国家に対する意識は日本人のそれと異なるのだということを強く感じた。それは7000以上の島からなり、多くの移民と長い占領の歴史を有する国であることも関係していると考える。そしてそれこそがこの停滞を生み出している最大の原因なのではないだろうか。

 先進国と呼ばれる国々が経済的停滞を見せる中、フィリピンに対する支援金の額は減少し始めている。いまNGOは新たな資金源を模索している。そしてそれは国内の中間層のなかに求めるべきだと考える。NGOは政府と貧困層の橋渡しの役割を20年以上担ってきた。それに加えこれからは貧困層と中間層との橋渡しをより積極的に行っていかなければならない。具体的には地方政府や大学、企業との連携などだ。それが安定した資金源と強い政党を生み出し、より包括的な市民社会を生み出すこととなる。そしてその役割はNGOしかできないのである。

 

フィリピンにおけるNGOの活躍と市民社会
 本論文は英文で書かれています。ダウンロードの上,ご覧ください。
Makino フィリピン論文.pdf
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